山あいの道を下ると、川沿いの村に出た。
夕暮れが近い。
須田は水を汲んでいる女に声をかけた。
「旅の者ですが、この村で一晩泊めていただけますか」
女は須田を見て、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。
「今夜は水神祭です。よければ寄っていきなさい」
そう言って、川の方を指さした。
(これも出会いか)
須田は軽く頭を下げた。
川岸には人が集まりはじめていた。
子どもから年寄りまで、皆、手に石を持っている。
須田は近くの男にたずねた。
「石を投げるのですか」
男はうなずいた。
「川が荒れぬようにな。昔からのならわしだ」
秋の川は静かに流れている。
だが、山の雨が続くと、この川はすぐに暴れるのだという。
人々は川岸に並び、石を一つ手に取る。
小さな声で、川に語りかけるように祈っていた。
そして、順に川へ向かって投げた。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
石は水に沈み、波紋が広がる。
須田も足もとの石を拾った。
丸く、手になじむ石だった。
手の中で転がす。
昼に拾った石と同じように、形も重さも違う。
(これも出会いか)
須田は川面を見た。
人々は石を投げながら、小さく祈りの言葉を口にしている。
水の神を鎮めるためのものらしい。
須田は石を握り、静かに意念をこめた。
川へ向かって腕を振った。
石は弧を描き、暗くなりはじめた水面へ落ちた。
ぽちゃん。
波紋がひろがり、やがて消えた。
祭りのあと、男たちは火を囲んで座った。
酒がまわされる。
「旅人、あんたも一杯どうだ」
須田は盃を受け取った。
(これも出会いか)
火がぱちぱちと鳴る。
男たちは今年の雨のこと、川のこと、山のことを話していた。
須田は酒を口に運びながら、黙って聞いていた。
川の音が夜の中で静かに流れている。
やがて酒も尽き、人々はそれぞれの家へ帰っていった。
須田も横になった。
川へ投げた石を思い出す。
川の音が遠ざかり、意識が沈んでいく。
やがて、眠りに落ちた。
―― 続く ――
