境界の山にある「雀のお宿」に、ある日――
ぽこっ、と温泉が湧いた。
宿の雀たちは大慌て。
その噂を聞きつけた、すずめ天狗たちは大喜び。
「温泉だって! 行くぞ行くぞ」
半三が羽をばさばささせると、
平三も三寸坊も辰三郎も、目をきらきらさせた。
こうして、境界の里から
ちょこちょこ、ぱたぱた、温泉遠足が始まった。
湯気はふわふわ。
お湯はとろり。
すずめ天狗たちは、羽をぷかぷか浮かべて大満足。
「これは…仙界の湯かもしれん」
「いや、ただの温泉だと思うぞ」
「でも気持ちいいからどっちでもいい」

そんな会話をしながら、
すずめ天狗たちはすっかりとろけていた。
帰り際、お宿の雀たちが
「おみやげです」とツヅラを差し出した。
大きいツヅラと、小さいツヅラ。
もちろんすずめ天狗たちは――
「大きいほうが楽しいに決まってる!」
と、迷わず大きい方を選んだ。
境界の山道を帰る途中。
半三が言った。
「ちょっとだけ開けてみようか」
ぱかっ。
その瞬間――
ぼわああああああっ!!
ツヅラの中から、
もくもくと煙が立ちのぼり、
お化けが飛び出した。
「ひゃああああああ!!」
「で、出たああああ!!」
「温泉の気が乱れるううう!!」

すずめ天狗たちは、
羽をばたばたさせながら全力で逃げた。
お化けはというと、
「ちょっと驚かせただけだよ〜」
と、のんびり手を振っていた。
てんぐ堂に戻ったすずめ天狗たちは、
囲炉裏の前で息を整えながら言った。
「やっぱり…小さいツヅラにすればよかったな」
でも、
温泉は最高だったし、
逃げるのもなんだか楽しかった。
だから今日も境界の里は、
ちょっとにぎやかで、
ちょっと幸せだった。
