それは、特別な一日から始まったわけではない。
大きな出来事があったわけでもない。
ただ、違和感があった。
同じことを繰り返しているはずなのに、
どこかが噛み合っていない。
うまくいっているはずなのに、どこかが濁っている。
その濁りを見つめたとき、
物語は静かに動き出した。
須田夢物語は、二つの章から成っている。
けれどそれは、別々の物語ではない。
ひとつの歩みを、違う角度から見ているにすぎない。
読む順番について
この物語は、【水鏡の章】から始まる。
心を見つめる静かな時間があってこそ、
【異国歩行の章】で起きる変化の意味が深まる。
けれど、歩くことに惹かれるなら、
【異国歩行の章】から入ってもいい。
迷ったら、まずは【異国歩行の章】から読んでほしい。
歩みの面白さを感じたあとで【水鏡の章】に戻ると、
須田の心の揺れが、まったく違う深さで見えてくる。
どこから読んでも、
やがてもう一方へ戻りたくなるはずだから。
水鏡の章 ― 揺れる心と向き合う
水鏡では、大きな事件は起きない。
勝負も、劇的な覚醒もない。
あるのは、心のさざ波だ。
できたと思った次の日に崩れる。
分かったと思った瞬間に迷う。
鏡の前に立つと、誤魔化しが効かない。
自分の焦りも、慢心も、そのまま映る。
それでも立ち続ける。
変化は小さい。
だが、ある日ふと気づく。
以前なら揺れていた場面で、
揺れがほんの少し静まっていることに。
水鏡は、戦いの章ではない。
向き合う章である。
物語は静かだ。
だがその静けさの奥で、確実に何かが積み上がっていく。
異国歩行の章 ― 歩くことで世界が変わる
異国歩行は、ひとつの疑問から始まる。
「歩く」という当たり前の動作を、
本当に分かっているのだろうか。
足裏の感覚。
重さの移ろい。
重力との対話。
歩き方が変わると、景色が変わる。
同じ道を歩いているのに、
地面の質感が違って感じられる。
時間の流れが伸びたり縮んだりする。
やがて、身体の奥に眠っていた感覚が目を覚ます。
それは派手な奇跡ではない。
だが確かに、以前とは違う。
水鏡で見つめた心が、
ここで身体を通して立ち上がる。
静かだった物語は、
歩みとともに、確かな手応えを帯びていく。
