水の道場にもどってきた。
新月で真っ暗だ。
頭目は闇を指さした。
「あれを打ってみろ」
(何も見えない)
指さした方を向き、石を手に持った。
(どう当てる)
焦りが生じる。
大きく息を吐き、
背筋を伸ばした。
そして、場の乱れを探る。
乱れの波長が静まった。
そして、境界の気配。
水鏡の池に立っている。
すーっと腕を上げ、握った石を離した。
どうして離したのか分からない。
石はそのまま水面に向かって落ちていく。
波紋はできず、溶けるように吸収され、
そのまま水面が光った。
「うむ!」
後ろで三寸坊の声。
同時に、パーンと音がした。
石が板に当たる音。
我に返った。
(礫を打ったのか)
手を開いた感覚しかなかった。
これが、放つのではなく離す感覚か。
頭目は言った。
「もう的を意識する事もないな」
そして、巻物を一巻渡された。
礫伝授。
(こ、これは!)
以前の鎖分銅の巻物は白かった。
あぶりだしかと思ったが、
やっぱり白。
須田は開いた。
ねらう的
悟りしときは
的もなし
(・・・ありがたい歌なんだろうな)
須田は巻物を閉じた。
握るとは、縛ることか。
だが、離すとは、捨て去ることではないのだろう。
すべては在るのかもしれない。
ただ、揺れぬだけ――なのか。
まだ、よく分からない。
須田は手で石を握る形をつくった。
何もない。
それでも、指先にわずかな重みが残っている気がした。
――須田夢物語 離放の章 完。
