夜の夢を思い出しながら、須田は歩いていた。
(石に念を込めると、境界とつながるのか。
石にも意志が生まれるのだろうか)
須田は道の石をひとつ拾った。
石を手の中で転がす。
昼の感触とはまた違う。
(石を投げるということは、生活に近い)
子供のころは、水切りで投げた。
稽古では、的を狙って投げた。
祭りでは、祈りを込めて川へ投げた。
同じ石でも、意味が変わる。
放つとは、ただ手を離すことではない。
出会いを受け取り、手放す。
そういうものかもしれない。
須田は少し歩き、拾った石を木の葉へ向けて放った。
ガサッ。
葉が揺れた。
石は地面に落ち、ころりと転がった。
霧が深いな。
須田はふと足を止めた。
境界の里と同じ気配がする。
すこし進むと視界が開けた。
目の前に見える景色が、
いつもと違う。
見たことのない草。
見たことのない木。
遠くに、
石造りの建物。
壁には見慣れぬ紋様が刻まれていた。
これは、西方の雰囲気だな。
東方の桃源郷と同じように西方も境界があるのか。
須田は静かにそう思った。
池の近くでは、羽の生えた子供が遊んでいる。
てんぐではないな。
子供たちの羽は白く、風に合わせてふわりと揺れた。
声は小鳥のさえずりのように軽く、言葉というより音に近い。
どうやら池に石を投げ込んでいるようだ。
木の上には、枝分かれした小枝に蔓を張った
道具を持った子供がいる。
水面を狙っているようだ。
弓のようにも見えるが、小さい。
蔓を引き絞り、
放した瞬間。
石が勢いよく水面に飛んでいく。
ばしゃん。
水の音がした。
あまりの威力に驚いた。
それと同時に、
須田はまた、もとの霧の中に立っていた。
それは一瞬の揺らぎだったのか。
そして、あの道具は、何を象徴しているのか。
―― 続く ――
