【離放の章】第五話 石の意味

夜の夢を思い出しながら、須田は歩いていた。

(石に念を込めると、境界とつながるのか。
 石にも意志が生まれるのだろうか)

須田は道の石をひとつ拾った。

石を手の中で転がす。

昼の感触とはまた違う。

(石を投げるということは、生活に近い)

子供のころは、水切りで投げた。
稽古では、的を狙って投げた。
祭りでは、祈りを込めて川へ投げた。

同じ石でも、意味が変わる。

放つとは、ただ手を離すことではない。
出会いを受け取り、手放す。
そういうものかもしれない。

須田は少し歩き、拾った石を木の葉へ向けて放った。

ガサッ。

葉が揺れた。

石は地面に落ち、ころりと転がった。

霧が深いな。

須田はふと足を止めた。

境界の里と同じ気配がする。

すこし進むと視界が開けた。
目の前に見える景色が、
いつもと違う。

見たことのない草。

見たことのない木。

遠くに、
石造りの建物。
壁には見慣れぬ紋様が刻まれていた。

これは、西方の雰囲気だな。
東方の桃源郷と同じように西方も境界があるのか。
須田は静かにそう思った。

池の近くでは、羽の生えた子供が遊んでいる。
てんぐではないな。

子供たちの羽は白く、風に合わせてふわりと揺れた。
声は小鳥のさえずりのように軽く、言葉というより音に近い。

どうやら池に石を投げ込んでいるようだ。
木の上には、枝分かれした小枝に蔓を張った
道具を持った子供がいる。
水面を狙っているようだ。

弓のようにも見えるが、小さい。

蔓を引き絞り、
放した瞬間。

石が勢いよく水面に飛んでいく。

ばしゃん。

水の音がした。

あまりの威力に驚いた。
それと同時に、
須田はまた、もとの霧の中に立っていた。

それは一瞬の揺らぎだったのか。
そして、あの道具は、何を象徴しているのか。

―― 続く ――

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