【絆響の章】 第一話 霞の音

風の道場にいる。
今日は鎖分銅の稽古だ。

館長が言った。

「……霞をやってみろ」

霞。
合掌した手の間から一歩踏み出し、
鎖を真っすぐ打ち出す技。

風の道場の鎖分銅は、
霞にはじまり、霞に終わる。

須田は参拝するように合掌し、静かに立つ。
息を整え、右足を出しながら右手を伸ばす。

――ガシャ。

鎖が伸びきった音が道場に響く。

館長はこちらを見ていない。
いつもそうだ。
音だけを聞いている。

「ん~……もう少しだな」

出た。
その“もう少し”の基準がわからない。
ダメとも言われていないが、良いとも言われていない。

館長が床の間に向かって坐った。
今日の稽古は終わりらしい。

須田は館長の三歩後方に座り、目を閉じる。
深呼吸をして心を静める。

正面に礼。
互いに礼。

館長が立ち上がり、床の間から何かを取った。
法螺貝だ。

(……ん? そんなの、いつもあったか?)

館長はそれを須田の前に置いた。

「精進せい」

それだけ言って、道場を出ていった。

「……武の道場、だよな。」