風の道場にいる。
今日は鎖分銅の稽古だ。
館長が言った。
「……霞をやってみろ」
霞。
合掌した手の間から一歩踏み出し、
鎖を真っすぐ打ち出す技。
風の道場の鎖分銅は、
霞にはじまり、霞に終わる。
須田は参拝するように合掌し、静かに立つ。
息を整え、右足を出しながら右手を伸ばす。
――ガシャ。
鎖が伸びきった音が道場に響く。
館長はこちらを見ていない。
いつもそうだ。
音だけを聞いている。
「ん~……もう少しだな」
出た。
その“もう少し”の基準がわからない。
ダメとも言われていないが、良いとも言われていない。
館長が床の間に向かって坐った。
今日の稽古は終わりらしい。
須田は館長の三歩後方に座り、目を閉じる。
深呼吸をして心を静める。
正面に礼。
互いに礼。
館長が立ち上がり、床の間から何かを取った。
法螺貝だ。
(……ん? そんなの、いつもあったか?)
館長はそれを須田の前に置いた。
「精進せい」
それだけ言って、道場を出ていった。
「……武の道場、だよな。」
