【離放の章】第一話 石のはじまり

出島への手紙を頼まれ、しばらく遠出をすることになった。
その前に、水の道場へ立ち寄る。

稽古の内容は、その場で頭目が決める。
何を基準に選んでいるのかは、いまだによく分からない。

今回は、どんぐりを渡された。

「指で弾け」

床に座り、三歩先に置かれた茶碗を狙う。
ひたすら弾く。

集中するので、思った以上に疲れる。

気分転換に外へ出て、池をぼんやり眺めた。
ふと、足元に平たい石が目に入る。

(昔、よくやったな)

石を拾い、水面へ向かって投げた。

ポーン。
ポン。
ポン。
ポンッ。

石は三度跳ね、静かに沈んでいった。

子供のころ、何度跳ねるか競い合った“水切り”だ。
石の選び方や投げ方を、子供なりに研究したものだった。

そのとき、背後から頭目の声がした。

「石を池の向こうまで飛ばしてみろ」

言われるまま投げるが、当然届かない。

頭目は懐から手拭いを取り出した。
中央に石を挟み、二つ折りにする。

水車のようにくるくると回し、握った両端の片方を離す。

石は勢いよく飛び、池を越えていった。

「礫はな――」

頭目が言う。

「指で弾く。
 投げて飛ばす。
 紐などで放つ」

「いくつか方法がある」

そう言って、

「それぞれ修練するとよい」

須田は、石という単純なものの奥に、
まだ知らぬ世界があると感じた。

その日から、石の稽古が始まった。

枝から紐でつるした竹筒を狙って、石を投げる。
当たれば竹筒が揺れる。

揺れる竹筒を、また狙う。
これが思いのほか難しい。

(そういえば風の道場でも、似た稽古をやらされたな)

鎖分銅で、揺れる的を打つ。
距離は近かったが、要領は同じだ。

そんなことを思いながら石を投げ続け、
やがて腕が上がらなくなった。

ーー 続く ーー

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