【絆響の章】 第八話 飯縄の祠

翌朝、須田は山伏一行と別れた。

「ここから先は、方向が違うな。
 世話になったな。」

権之助がそう言い、
千波と沙耶も静かに頭を下げた。

昨日の礼にと、権之助は錫杖を差し出した。

錫杖は、人の背丈ほどの長さで、
先端の輪に下がった六つの金属が
歩くたびに チリ…ン と澄んだ音を立てる。
山道を歩く杖にもなり、魔除けにもなる道具だ。
また、獣除けの音にもなり、いざとなれば槍としても使える。

「境界に呼ばれやすい者は、音を持っておけ。
 山が荒れても、これが道を示す」

須田は深く礼をして受け取った。

三人と別れ、ひとり飯縄山へ向かう。

山道は細く、ところどころ崩れている。
鳥の声も少なく、風の音だけが耳に残った。
もらった錫杖は紐で斜めがけにし、背中に担いだ。

歩きながら、鎖の修練を続けた。

三歩進んで、霞。
三歩進んで、霞。

歩くたびに、山の気配が濃くなる。
胸の奥のざわめきが、少しずつ形を持ち始めていた。

やがて飯縄山の入口に着いた。
鳥居があり、須田はお辞儀してくぐる。
空気が、かすかに変わった。

途中には、等間隔で古い石像が立っている。
どれも風雨に削られ、表情は読めないが、
どこか見覚えのある“気配”をまとっていた。

木々が途切れ、岩場の向こうに小さな祠が見えた。

須田はお辞儀をして手を合わせた。
そのまま通り過ぎようとしたが、
なぜか胸がざわつき、足が止まった。

気になって、祠の中を覗いてみた。

そこには、石の像があった。

狐にまたがり、片手に刃、もう片手に索を持つ姿。
その索は、鎖分銅にも見える。

須田は息をのんだ。

――三寸坊に、そっくりだ。

てんぐ堂で見た姿と重なり、
背筋に冷たいものが走った。

疑問は募るが、先へ進むと小さなお堂があった。
山伏たちが修行で使うのだろう。

そこから山頂はもうすぐだった。

須田は山頂で霞を一時間ほど打ち、
お堂へ戻ってきた。

「今日はここに泊まるか」

山の気配は濃く、静かで、
どこか懐かしいようでもあった。