館長がなぜ法螺貝を渡したのか、わからない。
吹き方を教えてくれるわけでもない。
そういえば――
忍びの道場の頭目が言っていた。
「忍びが連絡を取るとき、法螺貝は便利だ」
狼煙は、見ていなければ気づけない。
だが音は、背を向けていても届く。
狼煙が良いときもある。
法螺貝が良いときもある。
状況しだいだ。
(……水の道場へ行って聞いてみるか)
そう思い、須田は道場を出た。
歩くときは、鎖分銅の霞打ち。

三歩進み、霞。――ガシャ。
三歩進み、霞。――ガシャ。
三歩進み、霞。――ガシャ。
つねに鎖分銅の修練を続けた。
いつもの山だ。
空気が変わった、その瞬間。
須田は境界の里に立っていた。
そのとき、法螺貝の音。
ぶぅーうっうーーー
ぷぉーおっおーーーーー
低い乙音。
高い甲音。
遠くの木の上に、すずめ天狗の三寸坊が見えた。
法螺貝を吹いている。
やがて、すずめ天狗たちが集まってきた。
集合の合図なのか。
また低い乙音。
そのとき、須田の肩の法螺貝が微かに震えた。
共鳴しているのか。
須田も吹いてみることにした。
すーーーー。
音が出ない。
大きく息を吸って、力いっぱい吹く。
すーーーー。
息を吐ききる。
苦しい。
大きく息を吸った瞬間――
須田は、元の山にいた。
―― 続く ――
