【離放の章】第六話 西方の石

少し先で、ガサっと音がした。

境界の気配とは違う空気だ。

須田は風を読む。

風下に回り、
姿勢を低くして忍び歩き。

また、ガサっと音がする。

礫を茂みに打ったときの音に似ていた。

須田は、風で草木が揺れた瞬間に合わせて進む。

やがて、人影が見えた。

男は静止している。

風の奥に、重い獣の匂いが混じっていた。

次の瞬間――

奥で、ガサッ。

石が飛んでいった。

あの道具だ。

男はまた静止した。
須田も動かない。

どれほど時間が経っただろう。

やがて鳥が鳴き始めた。

男がゆっくり振り返る。

見覚えのある顔だった。

「よう、須田じゃないか」

以前、出島を訪れたときに世話になった
西方の冒険者だった。

「歩くの上手くなったな」

須田は頭を下げた。

「いえ、まだまだですよ。
こんなところで何をしているんですか?」

「薬草を探しに来たんだが、クマに出くわしてな」

「ああ、それで石を打っていたのですね」

ロビルは薬草を採り、出島へ帰る途中だった。
クマはまだこちらに気づいていない。

だから適度な距離に石を打ち、
遠のくのを待っていたのだ。

須田は男の手元を見た。

「その道具は何ですか?」

「カタパルトだ。
弓ほどの威力はないが、小さくて扱いやすい」

カタパルトには、伸縮のある魔法の蔓が使われている。
その蔓は西方でも珍しく、限られた山でしか採れない。

妖精フェアリーの力が宿っている、
とも言われているらしい。

そんな話を聞きながら、
二人は並んで出島へ向かって歩き出した。

足もとの石が、月明かりに白く光っていた。

―― 続く ――

This website stores cookies on your computer. These cookies are used to provide a more personalized experience and to track your whereabouts around our website in compliance with the European General Data Protection Regulation. If you decide to to opt-out of any future tracking, a cookie will be setup in your browser to remember this choice for one year.

Accept or Deny