少し先で、ガサっと音がした。
境界の気配とは違う空気だ。
須田は風を読む。
風下に回り、
姿勢を低くして忍び歩き。
また、ガサっと音がする。
礫を茂みに打ったときの音に似ていた。
須田は、風で草木が揺れた瞬間に合わせて進む。
やがて、人影が見えた。
男は静止している。
風の奥に、重い獣の匂いが混じっていた。
次の瞬間――
奥で、ガサッ。
石が飛んでいった。
あの道具だ。
男はまた静止した。
須田も動かない。

どれほど時間が経っただろう。
やがて鳥が鳴き始めた。
男がゆっくり振り返る。
見覚えのある顔だった。
「よう、須田じゃないか」
以前、出島を訪れたときに世話になった
西方の冒険者だった。
「歩くの上手くなったな」
須田は頭を下げた。
「いえ、まだまだですよ。
こんなところで何をしているんですか?」
「薬草を探しに来たんだが、クマに出くわしてな」
「ああ、それで石を打っていたのですね」
ロビルは薬草を採り、出島へ帰る途中だった。
クマはまだこちらに気づいていない。
だから適度な距離に石を打ち、
遠のくのを待っていたのだ。
須田は男の手元を見た。
「その道具は何ですか?」
「カタパルトだ。
弓ほどの威力はないが、小さくて扱いやすい」
カタパルトには、伸縮のある魔法の蔓が使われている。
その蔓は西方でも珍しく、限られた山でしか採れない。
妖精フェアリーの力が宿っている、
とも言われているらしい。
そんな話を聞きながら、
二人は並んで出島へ向かって歩き出した。
足もとの石が、月明かりに白く光っていた。
―― 続く ――
