須田は気がつくと、風の道場に立っていた。
床は白く、風が流れ、どこか懐かしい匂いがする。
三寸坊の姿は見えないが、気配だけが濃く漂っていた。
館長が言った。
「……霞をやってみろ」
須田は合掌し、静かに立った。
その姿に、ふと道歌が浮かんだ。
おぼろ月夜の 影のごとく
形を見せず 心を映す
すっと、手足が前に出た。
ガチッ――!
鎖が伸びきり、境界の気配が一気に開く。
須田の下丹田に、何かがつながった。
「うむ」
それは館長の声か、三寸坊の声か分からなかった。
気がつくと、須田はまた合掌して立っていた。
館長が床の間に向かい、静かに座った。
須田もその後ろに座る。
正面に礼。
互いに礼。
館長が立ち上がり、床の間から何かを取った。
そして須田の前に置いた。
「霞打ちは見えないもの。
ゆえに音を聞く。」
館長はそれだけ言って道場を出ていった。
置かれたのは、一巻の巻物。
表には、墨でこう書かれていた。
霞伝授
須田はゆっくりと巻物を開いた。
……白紙。
「おい!」
思わず声が漏れた。
鎖は伸び、音を鳴らし、
見えぬものとつながる。
竹筒もまた、境界へ通じていた。
巫女と管狐も竹筒でつながっていた。
鎖分銅はすずめ天狗の三寸坊とつながる絆の道具なのかもしれない。
絆は、響きによって顕れる。
結ぶものではなく、
もともと通っているものなのかもしれない。
——須田夢物語 絆の章 完
