【異国歩行の章】第八話 帰り道の円

西方の四人は、出島の桟橋で手を振った。

「東で会うことがあれば、また酒だ」
バルドが笑う。

「その時は、もっと静かに歩けているだろう」
ロビルが言った。

須田は小さく頭を下げる。

「道を、ありがとうございました」

「道はお前が読んだ」
エルナが柔らかく言う。

示されたのは、歩みの指針だ。

「森は壊すなよ」
リースが笑った。

森――いや、空気だ。
場そのものを乱すな、ということだ。

船が離れ、帆が風を孕む。
異国の四人は、やがて白い水平線に溶けていった。

須田は一人、山道へ向かう。

帰り道は、静かだった。

(森に入った瞬間、環境は壊れる)

ロビルの言葉がよみがえる。

須田は立ち止まり、
呼吸を落とす。

風の向き。
湿り気。
土の匂い。

五感をひらく。

鳥が鳴く。
少し間を置き、
虫の音が重なる。

波紋は広がっていない。

須田は歩き出す。

歩幅は狭い。
小指球から入る。
母指球へ移す。
最後に踵。

後ろ足は泥から抜くように。

音を消すのではない。
不自然にしない。

足裏で地面を読む。

砂利は身体全体で吸収する。
落葉は周囲の音に溶かして踏む。
枝は踏まない。
踏むなら、重さを分散する。

(同調する歩き)

やがて山を抜け、
野がひらけた。

家の近くの野原に立つ、一本の木。

須田はその前に立つ。

円環の歩きを思い出す。

平起平落。

足を平らに上げ、
平らに落とす。

着地直前、わずかに滑らせる。

木の周りを、ゆっくりと回る。

右回り。
左回り。

地の気も、天の気も、
まだ感じ取れない。

(まずは、感じようとしないことからか)

それから、来る日も来る日も、
木を回る。

ときに山へ入り、
波紋を起こさぬ歩きを試す。

野原で円を描き、
森で同調する。

時間があれば、この二つを繰り返した。

やがてそれは、
修行というより習慣になっていく。

新緑の季節。

木の周囲だけ、
淡く円を描くように草が薄れている。

摩擦は起こしていないはずだ。
だが、毎日二時間も回れば、
そうなるか。

須田はその円を見つめた。

今日もまた、
木の周りを回る。