西方の四人は、出島の桟橋で手を振った。
「東で会うことがあれば、また酒だ」
バルドが笑う。
「その時は、もっと静かに歩けているだろう」
ロビルが言った。
須田は小さく頭を下げる。
「道を、ありがとうございました」
「道はお前が読んだ」
エルナが柔らかく言う。
示されたのは、歩みの指針だ。
「森は壊すなよ」
リースが笑った。
森――いや、空気だ。
場そのものを乱すな、ということだ。
船が離れ、帆が風を孕む。
異国の四人は、やがて白い水平線に溶けていった。
須田は一人、山道へ向かう。
帰り道は、静かだった。
(森に入った瞬間、環境は壊れる)
ロビルの言葉がよみがえる。
須田は立ち止まり、
呼吸を落とす。
風の向き。
湿り気。
土の匂い。
五感をひらく。
鳥が鳴く。
少し間を置き、
虫の音が重なる。
波紋は広がっていない。
須田は歩き出す。
歩幅は狭い。
小指球から入る。
母指球へ移す。
最後に踵。
後ろ足は泥から抜くように。
音を消すのではない。
不自然にしない。
足裏で地面を読む。
砂利は身体全体で吸収する。
落葉は周囲の音に溶かして踏む。
枝は踏まない。
踏むなら、重さを分散する。
(同調する歩き)
やがて山を抜け、
野がひらけた。
家の近くの野原に立つ、一本の木。
須田はその前に立つ。
円環の歩きを思い出す。
平起平落。
足を平らに上げ、
平らに落とす。
着地直前、わずかに滑らせる。
木の周りを、ゆっくりと回る。
右回り。
左回り。
地の気も、天の気も、
まだ感じ取れない。
(まずは、感じようとしないことからか)
それから、来る日も来る日も、
木を回る。
ときに山へ入り、
波紋を起こさぬ歩きを試す。
野原で円を描き、
森で同調する。
時間があれば、この二つを繰り返した。
やがてそれは、
修行というより習慣になっていく。
新緑の季節。
木の周囲だけ、
淡く円を描くように草が薄れている。
摩擦は起こしていないはずだ。
だが、毎日二時間も回れば、
そうなるか。
須田はその円を見つめた。
今日もまた、
木の周りを回る。
