須田は、ついに風の道場へとたどり着いた。
門をくぐる前から、空気が張り詰めているのを感じる。
それは風でも、音でもない。
身体に直接触れてくるような、強い何かだ。
「……裂ぱくの気合だ」
思わず、息を呑む。
外にいてもはっきりと聞こえる、張り裂けるような掛け声。
「エイッ!」
「ヤーッ!」
「トォッ!」
ひとつひとつの声が、空気を叩き、空間そのものを震わせている。
須田は静かに門をくぐり、道場の中へと足を踏み入れた。
中では、刀と十手による組手の稽古が行われていた。
木刀を構えた門人に対し、館長が十手を構え、微細に間合いを詰めていく。
はためからは近づいているようには見えない。
お互いが、止まった。
まるで、二人の間に壁があるようぶつかりがある。
門人の足先が、その見えない壁を数ミリ超えた。
次の瞬間。
「エイーーーーッ!」
鋭い気合とともに、館長の十手が振り下ろされた。
その瞬間、
バシィッ――
空気が爆発し、激しく震えた。
須田にもその爆発波が伝わり、体の芯にまで深く響いた。

床を踏みしめる音。
十手と木刀が交錯する乾いた音。
そして、空気そのものが揺さぶられるような感覚。
須田は、思わず目を見開いた。
(……この感じ)
脳裏に、境界の里でみた気の爆発がよみがえる。
――平三。
これまで幾度も出会ってきた、館長。
その動き、そのふるまい、そして放たれる気配。
(平三に、似ている……)
須田は無意識のうちに、館長の動きを追っていた。
風の道場では、技そのものよりも、
身体の使い方が重視されている。
身体の動きが、素手の体術、武器を持った武器術と
共通の動きをする。
動きは無駄がなく、
力みもなく、
しかし一撃ごとに、はっきりとした重さがある。
それは、単なる筋力や速さではない。
身体と心、そして呼吸がひとつに整ったときにだけ生まれる、
独特の「圧」だった。
やがて稽古が一区切りつき、休憩の時間になった。
須田は意を決して、館長に声をかけた。
「すみません……気って、どういうものなんですか?」
館長は、須田の方を静かに見つめ、
しばらく黙ってから、ゆっくりと口を開いた。
「気とは、身体と心をつなぐ、目には見えないエネルギーのようなものだ。
陰と陽、剛と柔、静と動、裏と表――この世は常に、相反する二つが釣り合うことで成り立っている。
その均衡を知り、保つために必要なのが“気”だ。
心と身体は本来、別々のものではない。
心身一如――心と体を一つにつなぐもの、それが気なのだ」
須田は館長の言葉を胸に刻み、深く息を吸った。
水の道場で学んだ静けさ。
竹林で体験した、気配の揺らぎ。
三寸坊との出会い。
それらすべてが、この言葉へとつながっていくように感じられた。
(……気を知ることが、すべての始まりなんだ)
須田は、ゆっくりと息を吐いた。
この道場で学ぶのは、
技の動作だけではない。
自分の心と体を知り、
気を操り、
存在そのものを自在に扱う術。
その第一歩が、いま始まろうとしている。
